ふたつの即興詩人-アンデルセンと森 鴎外

“即興詩人”は,アンデルセンのあこがれの国イタリアを舞台にしてくりひろげられる恋の物語。ローマに生まれた薄幸の主人公アントニオの生い立ちに始まり,オペラ女優アヌンチャタとの悲恋,数奇な運命の果てに,かれは即興詩人として名声を得,ヴェネツィア第一の美女マリアと結ばれてめでたく終わる。 その間に,親友…

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1997年の締めくくり

Book Review December 1997 今年最後の締めくくりは,読みやすい^^4点。 荒野の呼び声(ジャック・ロンドン) 海保眞夫による43年ぶりの新訳。旧訳者は岩田欣三。19世紀末,富裕な家でセントバーナードとコリーの間に生まれ育ったバックが,盗みだされ,ゴールドラッシュに沸くカナダで…

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忘られぬ言葉(ハイゼ)

ドイツ文学には昔から教養小説というカテゴリーがあるといわれています。我が国では最近,大学の教養課程なるものも縮小の一途で,若い世代にとって”教養”は死語同然となっており,教養書と呼ばれるのはもっぱらビジネスマン向けHow toものなど,”お勉強”関係の本ばかりで面白くありませんね。 その点,ドイツ…

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ドストエフスキー"妻への手紙"

ドストエフスキーの「賭博者」は,ギャンブルにはまっていく人間の心理を克明に描いたもので,まさにドストエフスキーならではの作品だ。 そう,ドストエフスキーはギャンブル狂だったのである。 本書「妻への手紙」には,一文無しになり質草がなくなっても一発逆転を夢見てルーレット台から離れることのできない情けな…

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旧掲示板2

文庫本大好き-掲示板No.2 森宏太郎 – 97/12/06 00:16:01 ホームページアドレス:http://www.alles.or.jp/~moriko/index.html 電子メールアドレス:moriko@alles.or.jp おすすめの本: ラ・ロシュフコー箴言集 コメント: はじ…

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メーテルリンクの"青い鳥"

幸せの青い鳥を求めて,チルチルが「思いでの郷」や「夜の宮」,「歓びの城」をたずねて廻る美しい詩のような名作,夢のようなまどやかな作品。1908年作。 岩波文庫にはメーテルリンクより翻訳を許された若月紫蘭氏の訳により,1929年に収録。1939年に改訳。赤帯フランス文学としてしばらく絶版になっていま…

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美味礼讃(サヴァラン)

「新しい御馳走の発見は、人類の幸福にとって天体の発見以上のものである。」 – ブリア・サヴァラン – 「岩波文庫の食の本」で,肝心なサヴァランが抜けてしまった。これだけ別に一項を設けよう!という特別の思い入れがあったわけではなくあのドラマ「王様のレストラン」とのからみで何か書こうと思いつつ,ビデオを…

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1997年11月の新刊

Book Review November 1997 先月までは創刊70周年記念の新刊・復刊ラッシュで,読む方も(たぶん出す方も)なかなか忙しかったが,今月はいつものペースで4点の新刊が出た。 1 市民の反抗 19世紀アメリカの作家ソローは自然を詳細に観察し,植物や動物のスケッチを数多く日誌に残した。…

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バルザックの大河小説

バルザックの小説は読まれなくなった。それは,本題にはいる前の能書きが長かったり,情景描写,舞台設定が細かすぎ,現代小説の話のテンポに慣れている読者には,それらを読まされる時間が耐えきれないからだという。 また,いわゆる若い読書人たちの中には,名も知らぬマイナーな作品を尊び,「世界文学全集」的な作品…

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旧掲示板1

文庫本大好き-掲示板No.1 富田 靖 – 97/11/07 04:34:39 ホームページアドレス:http://www.ascii.co.jp/service/pcretro/vol.2/index.html コメント: ハナさん,ホームページ拝見。高校生でもホームページを作っている人がときどき…

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"アメリカの悲劇"ドライサーの「シスター・キャリー」

アメリカ中西部の田舎からシカゴへやって来たキャリーは,華やかな都会生活の魅力にとりつかれたあげく,妻子ある酒場の支配人とニューヨークへ駆落ちする。そこで,キャリーは女優として売出し成功するが,男は没落し労働争議に巻込まれてゆく…。都市小説の先駆となったドライサー(1871-1945)の代表作。写真…

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1997年秋の復刊

Book Review 1997年 秋の復刊 11月は岩波文庫恒例「1997年秋の復刊」が発売されました。本来であれば,その発刊の精神からして,これは 岩波書店贖罪の日にならねばならぬハズですが,「待望の復刊」などと読者を有り難がらせるというのは怪しからんことです^^;;。 そこで,いまさら買うもの…

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解放された世界-H.G.ウェルズの予言書

第一次世界大戦前夜,1913年に執筆,14年に刊行されたH.G.ウェルズの「解放された世界」は,のちの第2次世界大戦における原子爆弾の惨害を「予言」したものとして,しばしば引用されます。 オットー・ハーンによるアイソトープの観測と核分裂の発見は1938年ですから,執筆当時はまだ原子爆弾はもちろん,…

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つゆのあとさき(永井荷風)

「つゆのあとさき」について荷風は,「教師をやめると気楽になって,遠慮気兼をする事がなくなったので,おのずから花柳小説のようなものを書きはじめた。カフェの女給は大正十年前後からにわかに勃興して一世を風靡し….しかし震災後早くも十年を過ぎた今日では盛りを越したようである。これがつゆのあとさきの出来た…

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Book Review

Book Review September 1997 1 マクベス(シェイクスピア) 改版。—-マクベス早わかり—-17世紀スコットランドの勇敢な武将マクベスは,魔女の暗示にかかり王ダンカンを殺し,悪夢の世界へ引きずり込まれてゆく。シェイクスピア最盛期の作品。シェイクスピアの四大悲劇とは,こ…

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外国文学の復権

最近,外国文学が読まれないという。ミステリやSFなどは別として,いわゆるかつて「世界文学全集」に収録されていたようなスタンダードな名作がダメだという。そういうものばかり並んでいる岩波は「危機感」を感じているかもしれないが,名作が読まれないというのは,別に岩波の責任ではないし,今に始まったことでもない…

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中島 敦の南洋物

岩波文庫より出た中島 敦の「李陵・山月記」は,以前から持っているような気がしたので,改版ものかと思い手に入れるのが遅くなってしまいました。 この作品集の中で初めて読み面白いと思ったのは,南洋物である小品集「環礁」です。中島の作品に南洋物があるのは,昭和16年より南洋庁の国語編修書記となり,パラオ島に…

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