岩波文庫の整理番号


岩波文庫の分類・整理のためにつけられた番号として,よく知られているのは著者別番号と,創刊当時からの★番号であろう。

現在の著者別番号は,分野別,著者別に一連の番号を振ったものなので,書店でもその順にならべているところが多く,目当ての本を探すときには「スタンダールは赤帯のフランス文学だから,500何番かな….」という具合である。

この著者別番号ができたのは1974年3月であるから,それまでは刊行順に振られた★番号が頼りであった。しかし,この★番号は,分野や著者には関係のないものだから,書店で★番号順にならんでいたとしても,目的の著者,タイトルを探しだすのは大変だった。

そこで1931年,刊行点数が300点をこえたのを機に,分野別に通し番号を振り,書店や読者の便宜を図ろうということになった。すなわち,岩波文庫を5つの帯色に分け,それぞれに通し番号を振った帯を巻くことによって,目的の本がどの辺りにあるのかをわかりやすくしたのである。

帯色と通し番号の振り方は当初,国文学(黄帯1~1000),現代日本文学(緑帯1001~2000),外国文学(赤帯2001~3000),哲学(青帯3001~4000),社会科学(白帯4001~5000)というものだった。これにより,たとえば漱石の「こころ」は緑1001となった。この整理番号は,昭和20年代半ばにいちど改定され,それぞれの帯色のなかであらためて1から順に振られることとなった。これにより「こころ」は緑39に変わった(ちなみに緑1は,藤村詩抄)。

整理番号は,あくまで既刊本を整理するための番号であったから,帯のみに記され(本体は★番号のみ),「総目録」にも記載されていない。しかし,当時の読者にとっては,これが書店での本探しの手がかりであったから,古い「解説目録」にはちゃんと載っている。

整理番号は1冊1番であったから,リストを作って蔵書を整理するには都合が良かった。そこで読者の中には,この整理番号に欠番があることを指摘する人もいたが,岩波によると,ロマン・ロランの「トルストイの生涯」など戦前に紙型までできていたのに刊行されなかったものがあるので,実際の刊行点数とは食い違いができてしまった,とのことである。

1974年に著者別番号に変わってからは,帯と本体に同じ番号がつけられるようになったため,この整理番号はなくなった。このような事情で,たとえば漱石の「こころ」は,★番号では8-9(のちに8-9a),整理番号では緑1001(のちに緑39),著者別番号では緑11-1,という変遷を辿ったことになる。

写真は整理番号の例。それぞれ,昭和7年,昭和11年,昭和17年発行のもの。