五足の靴(五人づれ)

五足の靴 (岩波文庫 緑 177-1)
岩波文庫の新刊「五足の靴」(五人づれ)が話題になっている。
本書は,明治40年,雑誌「明星」の詩人,北原白秋,木下杢太郎,平野萬里,吉井 勇,与謝野鉄幹が長崎,熊本方面を旅し,東京ニ六新聞に連載した紀行文。100年も前の作品だが,主催者の鉄幹以外は,まだ学生だった若い詩人達の姿が率直に描かれていて面白い。
鉄幹はこのとき以外にも,新詩社の若い同人達とたびたび旅行に出かけていたそうで,それは物見遊山というより,地方在住の同人や愛読者との交流,「明星」の宣伝を目的としていた。今回も柳川生まれの白秋が案内係となって,一ヶ月に及ぶ旅ながら,一行は意気盛んだ。
もっとも,このころすでに鉄幹と若い詩人との師弟関係には陰りが出ており,帰京後まもなく白秋らは新詩社を脱退,明星は廃刊となり,耽美主義的な「パンの会」を立ち上げる。激動の時代の前の束の間の平安といったところ。