小説の認識(伊藤 整)

小説の方法夏休みもようやく終わり。遊園地やプール,花火大会など,さすがにウンザリしてきましたが,ようやく普段のペースに戻れて嬉しいですな。
伊藤 整の「小説の認識」は,1949~53年にわたって諸雑誌に発表されたもので,前著「小説の方法」の発展として考えられ,かつ書かれたもの。著者の序文には,『本書には「我が秩序の認識」と「組織と人間」が加えられており,これは前著で積極的に試みなかった分野に足を踏み入れたことになるが,その理由は,このような分野のことを考えずには現代の文学が考えられなくなったからである』とある。
「小説の認識」は,当初河出新書として刊行されたが,当時の伊藤 整は,「文学入門」など新書による文学書のベストセラーを輩出し,新書ブームの立役者でもあった。
岡崎武志氏によると,硬い職業の人に軟らかい随筆を書かせる時代の気分というものが,昭和30年前後にはあり,ちょうどいまのような新書ブームがこのとき巻き起こった。時代はデフレで,とにかく値段の安い本を大量に自転車操業で出し続けなければいけない。新書という廉価軽装の器はそれにうってつけだった。新書出版史において,この時代の持つ意味は大きかった。
また,その頃,伊藤 整の「女性に関する十二章」(中央公論社,昭和29年)が年間売上げ1位の大ベストセラーとなった。当時,伊藤 整の名は「チャタレイ夫人の恋人」猥褻裁判で有名だったから,このような真面目な文学者と猥褻文学とのギャップがその後の新書ブームの性格を決定づけたとしている。