文庫本分冊の事情

ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫)
ダン・ブラウン
角川書店
売り上げランキング: 82953

ちまたで話題の「ダ・ヴィンチ・コード」。文庫版も大変な売れ行きらしい。

この「ダ・ヴィンチ・コード」について,Excite Bit コネタで,『単行本は上下巻の2冊なのに文庫本は上中下の3冊である。・・・なぜ同じ作品でも単行本と文庫本とでは冊数が違うのだろう』という疑問に出版社が答えている。それによると,『昔は単行本が上下2巻だったものを文庫本で1冊に合本するということもありましたが,現在では一般的に文庫本は売上面や流通上のことを考えて単行本よりも冊数が増える傾向にあります。文庫本は薄い方が手にとりやすく読みやすいですし,軽い方が持ち運びしやすいので小さくした方が好まれるんです。あと,人気の作品の場合は上下2冊よりも上中下と3冊並べる方が目立つので売上げが伸びるという効果もあります』とのこと。

ところで,販売当初はそれでよいのだろうが,一度品切れ絶版になると,分冊モノはなかなか見つけるのに苦労する。古書店などで,上・下巻など,何冊かに分冊されている文庫本の一つを見つけ,ポピュラーな書目だから片割れもすぐに見つかるだろうと高を括っていると,これがなかなか見つからないという経験のある人も多いだろう。岩波文庫の場合,途中でこけてしまった書目がたくさんあるから,「もともと無かった」ということにならないように,事前に調べる必要があることはもちろんだが,下巻だけあって上巻がどうしても見つからないときなど(いわゆる,後家さん),なんとも情けない気持ちになる。

分冊モノがなかなか見つからない原因の一つとして,すべての分冊が同じ部数印刷されているわけではなく,一般に「あとの方」になるほど発行部数が減っていくことが挙げられるだろう。たとえば,岩波文庫フェア「わが心の世界文学」のパンフレットには,書店向きのセット販売の案内があるのだが,ここに分冊ものの配本比率が示されている。そこには,唐詩選など3分冊ものは,(上)5冊(中)3冊(下)2冊の配本比率。嵐が丘など2分冊ものは,(上)5冊,(下)3冊。グリム童話5分冊は,(1)5冊,(2)3冊,(3)~(5)2冊。モンテ・クリスト伯7分冊は,(1)5冊,(2)3冊,(3)~(7)2冊,などと先細りの傾向が示されている。唐詩選はともかく,モンテ・クリスト伯を第1巻だけ読んで終わりにする,というのは考えられないが,実際の売れ行きを勘案すると,こんなものなのだろう。

これに関して,古い資料だが岩波書店「文庫」1958年3月号に,岩波自身が次のように記している。「昨年末から正月にかけて,「モンテ・クリスト伯」が巻数によって品切れになり,ご迷惑をおかけしました。営業部では,毎月末に棚卸しを行って,在庫部数を調べています。在庫1800点の毎月の出品部数は,書名が違うようにまちまちです。毎月数千部のものから,百部以下位しか需要のないものもあります。また,つづきものになりますと最初の巻とあとの巻では,出品部数が違ってきます。読者の方々の根気がわかって面白いものです。・・・たとえば,「源氏物語」の第一巻は初版以来15万売れましたが,最後の第五巻はその三分の一も売れたでしょうか。「戦争と平和」も第一巻の15万に対し第八巻はその三分の一といった状態です。この出品部数と在庫部数を睨み合わせて重版をしてゆくわけです。ところが,映画化されたり,舞台にかかったりして,急に出品部数がふえることがあります。「モンテ・クリスト伯」の突然の品切れは,ラジオのためのようでした。」