銀座復興(水上滝太郎)

銀座復興 他三篇 (岩波文庫)
水上 滝太郎
岩波書店
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岩波文庫の新刊「銀座復興」(水上滝太郎)。慶應義塾生で永井荷風門下の水上瀧太郎が、実在の料理屋「はち巻岡田」の主人をメインに、関東大震災後の銀座の復興の様子を描いたもの。

震災により壊滅した銀座には当時、あまりの惨状に復興を諦め見切りをつけようとする者と、これが東京を建て直す絶好の機会だと考え、必ず震災前以上の繁華街として復興すると考える者がいて混沌としていたが、その中に、いち早く裏通りに掘っ立て小屋をたてて商売を復活させようとしている料理屋「はち巻岡田」の夫婦がいた。「復興しないったってさせてみせらあ。あたしゃあ銀座の御世話になっているんだから、復興の露払い位つとめなくちゃあ申訳がないや」という亭主の意気込みに「私」は「銀座は、銀座病の人々に取って、我家の外の我家であり、東京の人間の共同の庭」であると感じ、復興への期待をふくらませる。

その後、商店街の面々による復興会が作られ、「京橋から新橋迄のあきんどは、遅くともこの月末までに、バラックだろうが葦簾張りだろうが、兎に角家の格好をしたものを建てよう。それが立ち並んだところで、復興記念売出ってのをやろうじゃないか」と話がまとまり、水道、電気も復旧して、11月1日の復興売り出しの日を迎えることに。

本作品は終戦後、空襲によって銀座が焼け野原になった後に、久保田万太郎によって脚色され舞台化され、そちらも話題となった。「はち巻岡田」は今でも銀座三丁目にあり、本書に触発されて訪れてみようという人もいるかと思うが、料理は当時のバラックからは想像できない高級割烹価格である。

実在の老舗の名前も数多く出てきて、銀座の歴史を知りたい方にもお薦め。本書はほかに、「九月一日」、「果樹」、「遺産」を収める。