ヒトラー「わが闘争」の再出版をめぐり論争

わが闘争(上)―民族主義的世界観(角川文庫)
アドルフ・ヒトラー
角川書店
売り上げランキング: 185

毎日新聞ほかによると、戦後、ドイツで禁書となってきたヒトラーの「わが闘争」の再出版について、「極右のネオナチが喜ぶだけで出版は危険」「学術目的には必要」と同国内で議論になっている。

「わが闘争」は1925年に上巻、27年に下巻が刊行され、33年にナチスが政権を取ってからは「聖典」化し、学校の授業で使われたほか、新婚家庭にも配布された。45年の終戦まで1000万部以上が出版されている。著作権は現在、ヒトラーが生前に住民登録をしていたバイエルン州が保有。ドイツでは作者の死後70年間、著作権が保障されるため、45年に自殺したヒトラーの著書は2015年いっぱいで「期限切れ」を迎える。

ドイツは基本法(憲法)で出版の自由を保障しているが、ナチス賛美につながる書物の配布は刑法で禁じられており、司法当局が出版を認めない可能性もある。ナチスによる犠牲者らへの配慮や、極右勢力の「聖典」となることを懸念し、これまで出版を許可してこなかったバイエルン州政府も「著作権が切れた後も、法によって出版は禁じられる」との見解だ。

一方、研究機関ではミュンヘンの公立現代史研究所が「重要な歴史資料」であり、著作権が切れた後に注釈付きの新刊を出版したいとの意向を示している。これについて、ユダヤ人の組織「独ユダヤ人中央評議会」は「今も危険な本だが、禁書扱いはかえって魅力的に映ってしまう。既にインターネット上では非合法に出回っている。ネオナチの勝手な解釈を許さないためにも、むしろきちんと学術的解説を加え、世に出した方がいい。正しい歴史理解や研究のためには必要な資料だ」と出版に理解を示す一方で、ネオナチが勢力拡大に利用する可能性もあるなど、懸念の声も根強い。「研究目的であれば今でも図書館で読める。最近のネオナチにはヒトラーを神聖視しない若者も多く、もはや出版自体を危険だとは思わないが、労力をかけて出版するのは無意味な作業だ」と話す研究者も。

ちなみに、「わが闘争」は本国ドイツ以外では翻訳が入手可能で、日本でも73年に角川文庫から邦訳が出ている。