芸術家たちの秘めた恋ーメンデルスゾーン、アンデルセンとその時代

“スウェーデンのナイチンゲール”と呼ばれたジェニー・リンド(1820-1887)は、19世紀の最も有名なソプラノ歌手の一人。

幼い頃から歌の才能を発揮したリンドは、10歳の時にステージで歌い始め、その後、スウェーデン、ドイツ、オーストリア、イギリス、アメリカと世界各地の歌劇場に出演し、成功を収めました。

シューマンやベルリオーズ、ショパンなど彼女の歌に魅せられた音楽家は多く、なかでもメンデルスゾーンとの交流は友情以上の親密なものだったと言われていますが、そもそもメンデルスゾーンに彼女を引きあわせたのは作家のアンデルセンでした。

1843年に若き日のリンドと知り合ったアンデルセンは、すぐに熱烈な恋心を持つこととなりますが、この恋は身を結ぶことはありませんでいた。しかし翌年、リンドはアンデルセンの紹介でメンデルスゾーンに会い、ヨーロッパ各地の歌劇場への足がかりを得ることとなります。

リンドの才能を認めたメンデルスゾーンは、有名な指揮者でもありましたから、自らの演奏会で彼女を積極的に紹介し、リンドの名は次第に高まっていきました。その一方で、二人は次第に親密となり、「メンデルスゾーンほど立派な男でなかったら、彼を熱愛している娘とのアヴァンチュールになすがままに引きずられ、重大事件に発展していっただろう」(伝記作家ヴェルナー)という関係になります。結局、メンデルスゾーンは家族のもとへ帰っていくのですが、その後もリンドは彼の音楽に大きな影響を与えました。

リンドをめぐるアンデルセンとメンデルスゾーンのエピソードは、集英社文庫の新刊「芸術家たちの秘めた恋―メンデルスゾーン、アンデルセンとその時代」(中野京子)に詳しく紹介されています。本書は、以前さえら書房から出ていたものの文庫化で、音楽好きの方にお薦めします。