迷宮としての世界ーマニエリスム美術(ホッケ)

迷宮としての世界(上)――マニエリスム美術 (岩波文庫)
グスタフ・ルネ・ホッケ
岩波書店
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岩波文庫「迷宮としての世界ーマニエリスム美術」(上下)の著者グスタフ・ルネ・ホッケは1908年生まれのドイツのジャーナリスト。とくにマニエリスムに関心を持ち、本書のほかに「文学におけるマニエリスムー言語錬金術ならびに秘教的組み合わせ術」の著作もある。原著は1957年に出版され、1966年に種村季弘・矢川澄子訳が美術出版社より出ていて、今回はその文庫化。

マニエリスムというと難しげな美術史用語と思われるかもしれないが、要はマンネリズム、マンネリ。もともとは、16世紀のイタリア美術の様式で、ミケランジェロに代表されるルネサンスの調和のとれた表現に対して、マニエリスムは擬古典主義から表現的、歪曲的、超現実的、抽象的へ流れていくなかで、極端に不自然な表現を用いるなど、一種異様なスタイルを持ち、一方では、それが形式的で生気の欠けた表現に陥ったとして、形式主義、様式主義、マンネリズムの蔑称ともなった。しかし近年は、マニエリスムの不可思議な表現の中に洗練された芸術を見る再評価が進んでいる。

本書は膨大な作品を例示しているが、それらに美術史的な解説を期待しているとすぐに迷宮入りしてしまうので、こちらの頭も柔軟にして取り組む必要がある。