岩波文庫版「西遊記」覚書

genjoimage.jpg
・西遊記は,明の時代(16世紀後半)に呉承恩(1504-1582年頃)によって作られたと言われている。
・宋代には原型となる伝説「大唐三蔵取經詩話」(三蔵が猴行者(サルの行者)を連れ取経の旅をする)が存在していた。西遊記で今残っている最古のものは元代のものである。
・写本は科挙を目指す書生たちが息抜きに作成していったと言われ,その際,詩文・薀蓄が追加され,拡張されていった。その最も膨らんだ姿が,明萬暦20年(1592年)金陵世徳堂の刊行した『新刻出像官板大字西遊記』である。三蔵法師が天竺に仏典を求める旅を敢行したおよそ900年後にあたる。
・明末期に蘇州刊本『李卓吾先生批評西遊記』があり,内閣文庫に収蔵されているが,本文は世徳堂本とほぼ同じである。岩波文庫の西遊記(旧版:小野忍,中野美代子訳)はこれの全訳。
岩波文庫旧版の構成は,1977年第1巻の刊行が始まり,第3巻までが小野忍訳。訳者の急逝により6年間中断した後,1986年刊の第4巻から第10巻までが中野美代子訳となり1998年に完結した。中野氏は,刊行のたびに小野先生より西遊記を寄贈されていたそう。
・清代には簡本が多く刊行されるようになり,その中でよく知られているのが康熙33年(1694年)刊行の『西遊真詮』。平凡社の西遊記(太田辰夫・鳥居久靖訳)はこれを用いている。
・これまで我が国で訳された西遊記としては,「通俗西遊記」(口木山人訳,1758年),「絵本(画本)西遊記」(口木山人ほか,1806~35年),「新訳絵本西遊記」(小杉未醒訳,1910年,中公文庫),「物語西遊記」(徳川夢声訳,1951年),完訳「西遊記」(太田辰夫・鳥居久靖訳,1972年),「完訳西遊記」(村上知行訳,1976年,現代教養文庫),「西遊記」(邱永漢訳,1977年)がある。
・今回,あらためて新訳に取り組んだ中野美代子先生は,はるか昔,紅顔の少年であった私に「優」をくれた立派な先生である。『西遊記は荒唐無稽な冒険ストーリーの裏に,実に精密なトリック・ワールドの設計図が描かれている。中国のエロチックな文化を反映したタオ(道教)的世界観や五行思想や民話的イメージを随所に潜ませ,易の八卦に基づいた数字の仕掛け,オカルト的な煉丹術,中国人一流の漢字のアナグラム(言葉遊び),その因果関係や変換を調べだしたらきりがないほど記号論の宝庫です』
【参考】ウィキペディア西遊WEB