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家計簿で本代は教養娯楽費に入るという。教養なのか娯楽なのか,ハッキリしてくれ!と思うのだが,所詮,どちらも普通の家庭にとって腹の足しにならんもの,という括りであるのか。
亭主の本代は極限まで削らされ,文庫本1冊買うのにも本屋の棚の前で思案にくれる ….という惨めな生活が続くと,卑屈になっていかんですな。(あぁ,ひたすら買い まくった学生時代が懐かしい!) それでも現代は,多少なりとも生活に余裕がでたせいか,本代の家計に占める 割合は上昇しているらしい。
古い資料だが,日本人が書籍に使う金額を都留重人が次のように紹介している。 書籍に使うお金は,終戦直後の昭和21年で家計の0.13%。1ヶ月1万円として 本代は13円。今だと400円位か。これでは★1つの岩波文庫を1冊も買えない。同じ頃,書籍代が消費支出にしめる割合は,米国0.34%,英国0.29%であったから,日本はこれらの国に 比べて1/2~1/3に過ぎない。もっとも,他の国にしても,決して多い数字ではなかったが。
そこで,昭和初期の1冊1円ポッキリ「円本」大流行となるのだが,文庫本でも岩波に先行するアカギ叢書が,名作何でもかんでもダイジェスト1冊10銭という のを始めて,かなり流行った。これに対して岩波茂雄は,古典作品を全部完訳にし,廉価で刊行しようという計画を たてたが,さていくらにしたらよいものだろうかと悩む。そこで当時,新しい文庫刊行に当たって,原価計算を したのは,製本所から岩波の経理へやってきた大谷市三という老人で,この人が文庫★1つ100ページを20銭でできると計算。それは 著者の印税を10%とし,1万部売って200円儲かるという目論見であった。実際は,1冊20銭均一では冊数があまりに増えてしまうため,★3つ4つ位のものは 1冊にまとめて出すことになったのだが,「20銭ずつ読んでいこう」は 岩波文庫ファンの合い言葉となった。
岩波文庫の発行状況を見ると,初期のタイトルはほとんど1万部以上刷っており, 初版で「藤村詩抄」5万部,「古事記」「日本書紀」が3万,「万葉集」「こころ」 「たけくらべ」などが2万,「奥の細道」3万5千,「若きウェルテルの悩み」3万, などという記録が残されている。もちろん,岩波文庫の性格上,初版部数千部という特殊な本も出しているが,まずは当初の予想通りの立ち上がりであった。
参考までに昭和26年,岩波は「岩波文庫は他社の文庫に比べて,安いのか 高いのか?」という読者の質問に答えて,
文庫名 | 既刊点数 | 平均頁数 | 平均定価 |
新潮文庫 | 176点 | 124頁 | 40円 |
角川文庫 | 63点 | 107頁 | 30円 |
アテネ文庫 | 105点 | 72頁 | 30円 |
岩波文庫 | 878点 | 122頁 | 30円 |
と岩波の健闘ぶりを示したあと,「値段の高低は,内容,校正,造本三者の質に対する評価によってお考えいただきたい」といっている。