今はなきパラフィン紙

昭和62年の創刊60周年を機に,岩波文庫も他社の文庫本と同じようなビニール引きのカバーが付くようになり,その際古いファンから,”ギラギラしたカバーなんて”と反対の声が寄せられたりもしました。岩波文庫のカバーは,背表紙の下半分が帯色になっているのみで,統一のとれたデザインですから,書棚に並べたときもすっきりとしています。
カバーが付く前の岩波文庫は,分野で色分けされた帯と半透明のパラフィン紙(正確にはGPグラシン紙というようです)を巻いただけの姿でした。もっともこれは,岩波に限らず新潮文庫や角川文庫もかつては同じようなパラフィン巻きであり,岩波のカバー化が遅かったわけです。(旺文社文庫は箱付きでしたからパラフィン紙がありませんね….)
茶色の表紙に少しくすんだパラフィンというのは,なかなか渋くて好ましいのですが,このパラフィン紙,時間がたつとだんだん茶褐色に変わり,背文字が読めなくなってしまいます。特にストーブなどのススがかかるとよくないようで,私が学生時代に札幌で下宿していたころ,石油ストーブをガンガン焚いていたので,その時期の岩波文庫の変色は著しいです(紙自体も三方が変色しています)。
そこで15年ほど前,書棚をリフレッシュすべく,岩波書店に「古くなったパラフィン紙1000枚ほどを交換したいが,どうしたら手にはいるか?」と電話したところ,すぐに新しいパラフィン紙の束がドサリと送られてきました。そこで,汚くなったものから順に少しずつ交換していたのですが,その後,ささやかながら書庫を持ち,そこに保管するようになると変色が少なくなり,この紙はかなり余ってしまいました。
岩波文庫がカバー化された一時期は,なんとなく落ち着かず,カバーの上に薄いトレーシングペーパーをかけるという愚行?をしていましたが,いまではそのまま書棚に放りこんであるだけです。すべての本にトレペをかけている方もいるようですが,その努力と愛書精神には敬服いたします。