1998年8月

8月25~31日

30日夜,中華航空の遅れにより,東海道線の終電に滑り込みセーフで帰ってきました。台北は連日35度の暑さでしたが,美味しい食事には満足満腹しました。もっとも子供は,どこへ行こうが変わりなく,奇声を上げ,走り回り,ほかの子供のおもちゃを奪い,故宮博物館より台北SOGOデパートの子供広場がお気に入りといった具合。カミサンにとってはともかく,私にとっては果たして休暇になったのかどうかわかりません….。

8月23~24日

屋上登攀者(岩波文庫8月刊)とは変わった題名ですが,新聞記者で登山家であった藤木九三の山のエッセイを集めたものです(初版昭和4年)。単なる山行の記録ではなく,登山の技術や思想の歴史を面白く語っており,「・・・山をめぐるわが国の名著のなかでも,めだった特徴をもっている。多かれ少なかれ,山の本につきものの抒情が厳しく抑えられている」(池内紀)。それゆえ山の素人にも取っつきやすい本となっています。

☆あしたから一週間,台湾へ行って来ます。しばらくお休みしますが,またよろしくお願いします。

8月22日

学陽文庫の新刊,「古本探偵の冒険」(横田順彌)は,以前本の雑誌社から出た「探書記」を改題したもの。そのもととなったのはやはり「本の雑誌」の連載だから,都合3回目の登場となるわけですが,買ってしまいました^^。普通の読書ガイドや古本マニア本では取り上げられない日本の野球史や,本業?のハチャハチャSF本についての楽しいコラムが満載。お薦めです。

8月21日

岩波文庫に最初「国富論」として入っていたthe wealth of nationsが「諸国民の富」と名を変えたのは,富国強兵,覇権主義を連想させる書名に抵抗があったからだ,という話を読んだことがあります。この書名なら同一本だと想像がつくが,今月出たウェーバー「社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」」の旧訳が「社会科学方法論」だというのは,ちょっと難しい。本に限らず広く知られた邦題をあえて変えるからには,納得できる理由が必要だと思うけど….。

8月20日

朝,教育テレビ”3ヶ月英会話”で,オースティンの「自負と偏見」を取り上げていました。この本,地味なタイトルですが,岩波文庫の中でも,とくに面白い本の一つです(岩波でのタイトルは「高慢と偏見」)。モームも世界十大小説のなかに入れていなかったかな。見逃した方は,明日の朝の再放送をどうぞ。

8月19日

ハウフの名をきいて,懐かしい思いのする岩波文庫ファンは多いでしょう。岩波文庫にただ一冊納められた,高橋健二の名訳による童話集「隊商」は,この夭折したドイツの作家を我が国に広く知らしめました。それから60年近く経ち,ついに(大げさか^^;;)8月の新刊として彼の童話集「盗賊の森の一夜」(Das Wirtshaus im Spessart)が登場しました。これは珍しくも男っぽい童話です。

1802年シュトッツガッルトに生まれたハウフはチュービンゲンで哲学などを学び,家庭教師や新聞の編集者を務めたりした後,26年に”Lichtenstein”で作家として初めて成功を収めたが,彼の名をドイツ文学史に残すことになったのは,1826~28年に刊行された童話集や民謡にもなった詩によってである。彼は1827年,わずか24歳でその生涯を閉じた。ハウフの作品は,例のグーテンベルグプロジェクトで原文を読むことができる。

8月18日

ウェブデザイナーの Kyoko “Bammy” Shimamuraさん^^による,江戸の怪奇物語などを集めたページ「読書の横道」ができました。内容もユニークで,デザインもさすがに巧いものです。泉鏡花や怪談好きな人は見に行きましょう!

8月14~17日

岩波書店のホームページは,在庫書籍の検索に関してはよく出来ていると思うのですが,肝心の問い合わせ先や連絡先として,営業部の電話番号しか載っていないというのはどういうことでしょうか。岩波の営業は電子メールとか使っていないのかな? 総目録だって,高い値段でCD-ROMを売りつけたりせず,貴重なデータベースとしてオンラインで公開すれば,とっても役立つのに….。最近,たいした復刊文庫本が出ていないので,ストレスがたまりますね^^;;。

8月13日

Windows98を導入しました。ベータ版のときにはコケたので心配でしたが,それほど大きなトラブルもなく,まずは順調に動いています。見た目は全然変わらないので,これとまた数年?付き合うのか,と思うと,ちょっとガッカリ。

ちなみに私のホームページにお立ち寄りいただいた方では,Macが1割くらい。UNIXがごく少数,といった感じで,圧倒的にWindowsが多いです。Netscapeな方は意外に多くて,半数近く。最近はVer.4が多くなりました。Windows98でNetscapeの方は,まだ見かけません^^;;。

8月12日

BOOK Chase Boardという本好きな人のための掲示板ができました。ホームページの宣伝やメール仲間の募集など,みなさんのコメントがなかなか面白いです^^。

8月11日

岩波文庫7月の新刊の中で最後に残ったエル・シードの歌をようやく読み終えました。だいたい中世の叙事詩や伝承は,はじめから興味がわかないか,途中で挫折してしまうのが常ですが,これは丁寧な解説と詳細な注のおかげで,なんとか最後までたどり着けました。アルハンブラ物語(岩波文庫)を先に読んでおくと,当時のイベリア情勢がよくわかります。

☆エル・シードは,幼い頃よりスペインの宮廷に出入りし,サンチョ2世の信任を得て,
彼のもとで軍総帥として活躍。サンチョ2世が暗殺されると,弟のアルフォンソ6世が後を継ぐが,エル・シードは彼に疎まれ,周囲の謀略にも遭って国外追放の刑を受け,わずかな騎馬を従えて出国。諸国歴戦の末,1094年バレンシアを攻略し,イスラム勢力を一掃。イベリア半島での国土回復運動(レコンキスタ)における英雄と讃えられるようになった。

8月10日

私が編集担当の雑誌は,毎月10日が校了日なのですが,今月は著者が夏休みで行方不明になってたりして,まだ終わりません^^;;。焦っています….。最近はフロッピーや電子メールで原稿が送られてくることが多いので,ふつうの校正自体は楽になったのですが,校正刷りが出てからあと,著者による大幅な修正があるとどちらにしてもお手上げです。この時期,進行表を睨みながら,胃の痛い日が続きます。

8月8~9日

日曜日,新高輪プリンスのキティーちゃんのイベントにいってきました。いやぁ,子供はもちろん,若い女性まで大変な人と熱気。グッズの販売や,簡単なショー,ゲームなどがあって,私は同じショーに4回つきあわされました^^;;。

帰り道,横浜の高島屋に寄ったら,小籠包で有名な台湾の點心の店鼎泰豊が新しく出来ていました(新宿にもありますが)。ここでは,野菜餃子が美味しかったです^^。牛肉麺はちょっとしつこい(沖縄のソーキソバと同じ)。食べてたら台湾に行きたくなりましたけど,台北の書店情報なんていうページはないかしら。古い岩波文庫をおいている書店などあったら最高なんだけどなぁ。

とりあえず,疲れた日曜日ではありました。

8月7日

学生の皆さんは夏休み真っ最中,社会人の皆さんは夏休み中?あるいはもうすぐ夏休みというところでしょうね。そこで,よけいなお世話ですが,「夏休みにこれだけは読んでおきたい本….渾身の一冊」をお知らせします。とくに若い人はぜひお読み下さい。いや,違うぞ!というご意見もどうぞ。

ヴォーヴナルグ「不遇なる一天才の手記」(岩波文庫)・・・ヴォーヴナルグ侯爵は1715年,南仏に生まれ,はじめ士官として各地の戦闘に参加。のちにパリに出て文筆活動に入りましたが,32歳の若さで夭折しました。貧困と不遇に苦しみながらも,ヴォルテールやミラボゥに愛されたヴォーヴナルグの最期の言葉は『おお,死を決意することは,なんとむつかしいことなんだろう!』でした。

  • いつも控えめにばかりほめるのは,その人が凡庸である大きな証拠である。
  • 尊敬の念は愛情と同じくすり減る。
  • 老人の勧告は光を与えるが暖めない。冬の太陽のように。
  • 真理は言葉ほどにすり切れていない。それを手にとることが出来るのは少数の人々に限られるからである。

彼にはこういう箴言が1000近くあります。

8月6日

「鉄仮面」といっても若い人は知らないだろうなぁ(私もよく知らないが)。これを書いた黒岩涙香は,「萬朝報」という明治期の大衆新聞も出していて,そこに載ったFocusばりの各界著名人ゴシップを集めたのが蓄妾の実例(現代教養文庫)。

涙香が,この人身攻撃といえる連載を開始した主旨は,その前文にあげられた,○我国に一夫多妻の蛮風,今猶お如何の程度まで存するや○その蛮風は如何なる人々がこれを保存するや○この記事は世人にこれらの点を解釈せしめんために掲ぐ….に示されるとおり,社会改革者としての使命からということになっていますが,実際は発行人である涙香が,読者の興味をそそるセンセーショナルな紙面づくりの一環として始めたものでしょう。

ここには鴎外を始め,いまでもよく知られている人がたくさん出てきます。たとえば伊藤博文の項….『はじめ自宅出入りの土木請負人の長女を妾とし,麻布長坂町に壮麗な邸宅をもたせたが,病気のためこれを失うと,次は次女を手に入れた。しかしこれも19で死去したため,今度は16歳の三女まで手に入れようと欲したが,さすがに二人まで早逝したことに恐れをなした父親が容易に承諾せず,苛立った博文は莫大な金品を与え,出入りの者を使い交渉中だが,先月まで話がまとまった様子がない。しかし,今後の進展についてはわかり次第報告する….』

8月5日

素敵なデザインの読書サイト「本の虫茶房」の主人,にしかわさんが英国に新婚旅行に行き,その顛末を連載中です。べつに書店巡りをしているわけではないのですが,ほのぼのとした雰囲気で楽しく読ませていただきました。

8月4日

蔵前仁一氏の文庫本をもう一つ。ホテルアジアの眠れない夜(講談社文庫)。帯には「椎名誠氏絶賛の旅」と書かれ,大槻ケンヂとの対談がおまけです。

その中に,アジアのトイレ事情が書かれていて,やはり中国のトイレ(中国人民用)は恐ろしいとあります。「なにしろ,そこには扉,壁などほとんどなく,小さな穴が規則正しく並ぶだけなのだ。そればかりか,あたり一面に彼らの残したモノが散乱していて,足を踏み入れることさえ出来ない….」

長江下りの船の五等客室では,2,3百人の乗客に対してトイレが2個しかなく,「朝になるとほとんどの人がトイレに押し寄せるのであるが,この人数で2個となると相当長時間待たなくてはならない….なんと彼らは2個のトイレに続々と押し寄せ,ひとつのトイレで体を寄せ合い3人同時に用を足してしまうのだ」

8月3日

結局品切れでした。サンリオ版の立原道造詩集「夢みたものは」。とりあえず探求書として登録しておきました。残念。立原道造には最晩年(といっても24歳),恋人水戸部アサイさんとの間に,全集には載っていない絶唱とも言うべき手紙がたくさん残されていて,これも詩に劣らず感動的なのです。小川和佑の立原道造忘れがたみ(旺文社文庫・絶版)は,その手紙をもとに道造の最期を詳細に描いたお薦め本です。

8月1~2日

いやいや,蒸し暑い休日でした。夏バテ予防にと焼き肉を食べに行って,その帰り近くの本屋によったのですが,夜9時を過ぎても,涼んでいる?人でいっぱい。Windows98のパッケージがずらりと並んでいて,結構手にとって眺めている人がいました。ところで,新しい解説目録は出たのかな?