疑惑

ヒ素事件で思い出したのは,セイヤーズの「疑惑」(創元推理文庫)。急に体の調子が悪くなった男が,友人から主人を毒殺して逃げている女の話をきき,最近雇い入れた家政婦が,その女ではないかと疑う。

物置の奥にしまってあった除草用のヒ素剤を確かめると,きっちり締めておいたはずの蓋が緩んでいる。心配になって毒物検査をうけると,やはりヒ素中毒に間違いなかった。家に残している病弱な妻のことも気にかかる。そのうち体はますます衰弱し,家政婦に対する疑いは濃くなるばかり。

そんなある日,かの家政婦が居間に飛び込んできた。「旦那様,たいへんなお話がありますのよ。あの恐ろしい毒殺女がつかまったんですって。これでもう大丈夫ですわ….」

すべては誤解だったのだ。だが,そうだとしたら,この家のヒ素は? だれがいったいあれを….。彼はぎょっとして妻をふりむいた。そのときはじめて,彼女の目のなかに,いままで彼が,思ってもみなかったものを見た….。こんな感じの話でした。