狐になった奥様(ガーネット)

岩波文庫の新刊「狐になった奥様」(ガーネット)を読む。
あるとき若い夫婦が森を散歩していると,とつぜん妻が狐に姿を変えてしまった。夫はとまどいながらも,妻の面影のある狐を大切にし,愛するのだが,狐は次第に野性に目覚めて,ついに夫の元から逃げ出してしまう。
その後,妻には子狐が生まれて,その父親たる雄狐への夫の嫉妬や,妻の子供である子狐たちへの愛情など,少々屈折した心境が語られ,最後は狐狩りに追われた妻が,夫の腕の中で息絶える。
荒唐無稽な設定ではあるが,狐である妻への愛情が無理なく感じられて,あっという間に読み終えてしまう。男と女の関係についての一つの寓話として,たとえば因習から解放され自由になった女性とそれを追いかけざるを得ない男性,あるいは男性の心の中にある倒錯した性的欲求など,短いながら,読み手にさまざまな印象を与える物語だ。