出版物における文庫本の位置

文庫本が書籍や雑誌など書店で販売されている出版物中に占める位置は,どうなっているのか。
日販の出版物分類別売上一覧を見ながら考えてみよう。

この資料によると,文庫本の売上高は全出版物中8%ほどにすぎない
これは一般の文芸書の割合とほぼ同じであるが,書店において点数で勝る文庫本の売上が低いのは,もちろん単価が安いことに原因がある。
私の場合,書籍購入費における文庫本の占める割合は50%を超えることは確実だし,同じような方も多いと思うが,
それは必ずしも一般的な読書人の姿ではない,ということだ。

文庫本と一般の文芸書が売上高では拮抗しても,書店側から見れば,販売に要する手間はどちらも大きく変わるものではないから,
儲からない文庫本ばかりが増えるのは苦しい。”教養や文化”と薄利多売とにどんな関係があるのか,
それは限りある棚にあふれる文庫本を押し込んでいる書店員であってもわからない。

そんなときに,いつ発行されたかわからないような文庫本1冊を注文する客などまったく迷惑であり,
文庫本については一切客注を受け付けないという書店も出てきている。

この資料で面白いのは,文庫本が雑誌やコミックとともに消費財扱いされていること。岩波においては,時代に即した出版物である新書に対して,
文庫本は恒久的な出版物であるから,読み捨てにするなど考えたこともなかったが,一般にはそう考えられていないわけだ。

すなわち文庫本の概念には,「知的財産の継承」と「安価な知的消費財」という2通りがあるということで,この異質の文庫本が,
同じ感覚・流通システムで販売されているのが現状といえる。物量作戦で攻めてくる消費財型文庫本に対して,知的財産型文庫本
(岩波をだけ指しているわけではない)の旗色は悪い。

分類別売上構成比(%)日販資料による

分類 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997
雑誌 30.5 29.3 28.2 30.0 29.9 30.9 30.3 33.6 32.7 33.5
コミック 12.9 13.3 14.6 13.9 14.5 16.6 15.5 16.2 15.1 15.3
文庫 8.6 8.2 8.2 8.4 8.5 8.1 8.7 8.0 8.1 8.2
小計 52.0 50.8 51.0 52.3 52.9 55.6 54.5 57.8 55.9 57.0
新書 3.0 2.6 2.4 2.3 2.3 2.1 2.2 2.2 2.1 2.1
実用書 8.2 8.5 9.1 9.2 9.9 10.2 9.6 10.2 11.3 10.5
文芸書 7.7 7.6 7.7 8.1 8.3 8.1 8.9 7.7 7.9 8.2
児童書 4.4 4.3 4.2 4.8 4.4 4.0 3.7 3.4 3.1 2.9
学参 7.8 7.0 7.1 6.6 7.0 6.3 6.7 6.0 6.1 5.8
専門書 4.8 4.4 4.5 5.1 5.7 5.7 6.6 6.7 7.3 7.2
小計 35.9 34.4 35.0 36.1 37.6 36.4 37.7 36.2 37.8 36.7
その他 12.1 14.8 14.0 11.6 9.5 8.0 7.8 6.0 6.3 6.3