2004年9月

9月22~27日

岩波文庫の新刊「お伽草子」(太宰 治)を読む。カチカチ山,浦島太郎,こぶとりじいさんなど,
よく知られた昔話を太宰流に読み解いていく。童話や昔話を深読みして,そこに秘められた意味を探る・・・というような本は,あまたあるが,
これはあくまで太宰流。「こぶとりじいさん」では,『この物語には,不正の事件は,ひとつも無かったのに,それでも不幸な人がでてしまった。
それは日常倫理では測れないことであり,性格の悲喜劇というものである』といい,「カチカチ山」は,
狸の背負った薪に火を付け大やけどを負わせた上に,芥子を刷り込み,最後は泥船で沈めてしまうというウサギの異常な仕打ちを,
37歳の中年狸に対する16歳の処女ウサギの残酷さであるとし,狸の『惚れたが悪いか』という無念の叫びに,中年男の悲哀を見る。
おもしろおかしく書かれてはいるが,執筆は昭和20年,空襲下の東京。直後,焼け出された太宰は,妻子とともに,
戦後没落することとなる津軽の生家へ逃げる。その切迫感が息苦しく感じられる本でもある。

 

9月21日

ツール・ド・フランスといっても,テレビで見た山岳道路を選手たちが喘ぎながら登るシーンを見て,
ヨーロッパでは自転車が人気あるんだなあといった程度の認識しかない私でも興味を持って読めたのが,「ツール100話-ツール・ド・
フランス100年の歴史」(安家達也)。このフランス一周の自転車レースがいかにして生まれたか,毎年毎年の優勝者をはじめ,
歴史の残る名勝負や事件を取り上げています。とくに初期のレースは,観客から毒入りのドリンクを渡されたり,
ライバルをけ落とすために道に鋲を撒いたり,めちゃくちゃではありますが,メーカーによるチーム戦となった現在とは異なり,
鉄人たちが競う個人競技としての熱気も感じられます。タイヤのホイール交換も認められなかったため,
スポークが折れた選手が自転車を担いで10キロ離れた鍛冶屋まで行き,自分でトンカン叩いて直してレースに復帰したこと,あまりに速すぎて,
中間地点で2位と1時間もの大差がついたので,途中のカフェに入りこんでワインなど飲み,みんなが通り過ぎるのを待ってやおら再スタートし,
それでも優勝したことなど,今では考えられないエピソードが多く,楽しめます。著者が日本人なのにもビックリ。

 

9月19~20日

「自転車散歩の達人 The new fifties-黄金の濡れ落葉講座」(山川健一,講談社)を読みました。
こんな副題が付いていることには気がつかなかったけれど。ママチャリに乗りながら自転車の歴史や思想を語る著者。
どこかで読んだような文体だなぁと思ったら,「マッキントッシュ・ハイ」のひとでした。あくまで都会人のための自転車ガイドですが,
そこここに出てくる業界人的な見栄と自分で達人と書いてしまうセンスのなさがちょっと悲しい。類書が少ないので,
シティサイクルに興味のある方はどうぞ。

 

9月18日

ディスカウントストア「キムラヤ」が倒産。オヤジの109とか,新橋パルコとか言われた?新橋駅前店。営業は続けているようだが,
よく利用していただけに残念。ドンキホーテの進出等が響いたとも言われるが,やっぱりサラリーマンの景気がね。

 

9月13~17日

京都から戻ってきました。えい文庫の新刊「下町純情カメラ」(大西みつぐ)と平凡社新書「素晴らしき自転車の旅」(白鳥和也)
の2冊を持って行きましたが,行きの新幹線で読了。乱歩を読まずにとっておけばよかった,などと思いつつも,幸い?
時間を潰さなければならないような機会もなく,疲れて眠りながら帰ってきました。大西氏の写真は,下町路地裏の情景を撮ったもので,
その普通さの中にある人々の織りなすドラマや写しこまれたディテールのおもしろさが特徴。正々堂々と,ありふれた写真を撮ることは,
ほんとうに難しい。白鳥氏の自転車本は,いわゆるサイクリング(最近ではツーリングか)の楽しみを説く一方,装備や走行上の留意点など,
実用的な知識も充実しており,自転車好きにとってはもう一度長距離を走ってみたいという気にさせてくれる本。最近では,
別にテント生活をしなくても,ビジネスホテルや旅館に泊まりながらのサイクリングも可能だし,著者も言うとおり,
旅先で泊まるかどうかがサイクリストとしての大きな経験の差になります。

 

9月10~12日

休日はトンボ採りと「でんじゃらすじーさん」カードゲームのおつきあい。光文社文庫の江戸川乱歩全集の新刊「十字路」を読む。
本巻には,防空壕,大江戸怪物団,十字路,魔法博士,黄金豹,天空の魔人を収める。「十字路」は,『筋を立てるのに,
初期からの探偵作家クラブ会員渡辺剣次君に助力してもらった。作中の雄大なトリック,ダムの湖水の底に死体を隠す着想や,
新宿の十字路で二つの殺人事件が相交わるという着想は,渡辺君の創意によるものであった。渡辺君の立ててくれた筋を,
私に書きやすいように多少の変更を加えて,文章は私自身が書いた。したがって,これは半ば以上私の小説といっていいので,
全集にも入れることにした』と乱歩自身が言うとおり,プロットは借り物であり,それゆえ乱歩らしくない完成度の高さだが,
おどろおどろしいところはなく,舞台を現代に置き換えて,ドラマ化されたりもしている。今週いっぱい京都へ出張ですので,
持って行く新しい本を仕入れなくては。

 

9月7~9日

岩波アクティブ新書「快適自転車ライフ」(疋田 智)を読む。自転車ツーキニストで知られる著者の4冊目の自転車本。
ママチャリに乗って冒険に出かけよう,こんなに奥が深いぞ自転車の世界,快適な自転車通勤と自転車生活のために,自転車と街と未来と,
といった内容で,一見,大人のための自転車再発見のススメだが,読みでがあるのは,欧米の自転車先進国と比較して,
我が国の貧しい自転車社会を語る後半。普段自転車に乗っている人なら,誰でも感じる不満を,
明快に行政の意識の問題として洗い出してくれている。放置自転車はなぜ増え続けるのか,
いくつかの自治体が実施した共用自転車制度はなぜ失敗したのか・・・お薦めです。

 

9月6日

岩波文庫の新刊「ギリシア恋愛小曲集」(中務哲郎訳)。古代ギリシャの恋物語4篇(クセノポン「パンテイアとアブラダタス」,
カッリマコス「アコンティオスとキュディッペ」,パルテニオス「恋の苦しみ」,ムーサイオス「ヘーローとレアンドロス」)を所収。
平易な訳だが,いかんせん,歴史に疎い人間には人間関係がピンとこない。ぼちぼちと注に頼りながら,結構楽しく読み進んでいます。

 

9月5日

二度の地震のせいではないでしょうが,我が家の前の電柱にあるトランスまわりが炎上し,消防車が来る騒ぎに。急に周辺に家が増えて,
継ぎ足し継ぎ足ししてきた電線のせいか,海からの塩害のせいかは,分かりませんが,物騒な話。

 

9月2~4日

週末は海浜公園でトンボとり。黙って網を出してりゃ,勝手に入ってくれそうなほどたくさん飛んでいて,最初は捕まえた!
とご機嫌だった息子も,かごに入りきれないトンボを次々と小さい子に分けてあげることに。えい文庫の新刊「猫と写真の時間」(藤田一咲)
を読みました。既刊「ハッセルブラッドの時間」,「お茶と写真の時間」が好調とのことで第3弾。
日本と世界の街角で出会った猫を表情豊かに撮ったもの。たしかに,その国らしい猫の表情というのがあるんですね。最近,
猫の島として有名になった?我が江ノ島の猫たちも登場。著者の言うとおり,人間とノビノビ共生できるノラ猫は,平和のシンボルですな。

 

9月1日

「白鯨」の続きを読んでいます。捕鯨船と船乗り稼業についての記述が多く,古さを感じさせない迫力のある書きぶりなので,
読んでいると時代感覚が無くなってきますが,本書は日本が開国する直前,150年ほど前に書かれたもの。これまで,「白鯨」の翻訳は,
なかなか苦難の道を歩んできたようなので,今回は早期完結を望みたいところです。