岩波文庫の山の本

ウェストン「日本アルプスの登山と探検」
(1997/6)

日本アルプスを世界に紹介して,日本アルプスの父といわれるイギリス人登山家ウェストン(1861-
1940)の日本滞在中の登山記録。槍ヶ岳,乗鞍岳,立山,穂高岳,
御岳などへの登山や周辺地域の民俗がユーモアにみちた文章でつづられた山岳文学の古典。
日本の登山の先駆者たちもこの書物によって近代登山に開眼したという。1896年刊。
※ウェストンは,日本アルプスの美しさを讃えるとともに,外国人に踏み荒らされていない田舎の生活や風習に興味を持ち,
チェンバレンなど先人の業績も引きつつ,明治の山びとの生活を詳しく描いています。随所に挿入された古いアルプスの村々の写真や,
まだ観光化される前の各地の温泉場の様子も詳しく,山や温泉好きの人にとっては必読の書です。

志賀重昂「日本風景論」
(1995/9)

札幌農学校出身の地理学者志賀重昂(1863-1927)が,古典文学からの豊富な引用と,地理学の術語を駆使し,
日本の風土がいかに欧米に比べて優れているかを情熱的な文章で綴った本書は,
日清戦争の勝利と三国干渉という時期に刊行されてベストセラーとなった。
日本人の景観意識を一変させるとともに日本の近代登山の先駆けとなった著。
※長らく絶版で,古書価も上がっていましたが,95年に改版されました。折り込み地図がある岩波文庫は稀少です。

ウィンパー「アルプス登攀記」
(1936/5,1966/7 絶版)

苦闘6年,たびかさなる敗退にもめげず,1865年ついに魔物の山マッターホルンは征服された。だが,
その帰途,悲劇が起こった。本書はウィンパー(1840-1911)が,その一部始終を,
彼自身の手になる繊細華麗な木版画を豊富にちりばめつつ,イギリス風のユーモアを交えて淡々と語ったもの。
山岳文学の古典としてあまりにも有名。
※なんといっても当時の登山家の姿を描いた挿し絵がよい。この重要な書目が,なぜ絶版になっているのか不可解???

串田孫一「山のパンセ」
(1995/6)

詩人・哲学者串田孫一の山をめぐる随想集。ページをめくると,独特の詩的で平易な文章で綴られた,
山靴やスキーで野山を逍遥する著者の世界がひろがる。雨上がりの峰峰の夕映え,山小屋のストーブを囲む語らい….。
雪を待つ高原の1本の枯れ草までが魅力的な表情を浮かべている。著者自身が選び再編成した決定版。
※ウェストンの書では,日本の山は屈強な猟師と純朴な村人の信仰の世界だった。いつから山が哲学する場になったのか….。

田部重治/近藤信行編「山と渓谷」
(1993/8)

著者は北アルプスの麓の村の生まれ。毎朝,家の前の流れで顔を洗い身を起こすたびに白雪に輝く山々を仰いで育った。
「山が自分の一部であり,自分が山の一部というような心持ちになる」-数多くの読者を山に誘った我が国山岳文学の古典「山と渓谷」など,
英文学者・登山家田部重治(1884-1972)の山の随筆・紀行文集から精選。