1999年2月

2月26日

カロッサの作品は,昭和30~40年代にかけて,よく文庫化されており,今回岩波から復刊された「幼年時代」も,
かつて角川文庫から出ていたことがあります。「美しき惑いの年」や新潮文庫の「青春時代」に親しんだ人はご承知の通り,
淡い初恋の物語などが語られているものの,いわゆるドイツ教養小説の典型で,面白おかしいストーリーを求める人にとっては,
退屈なものでしょう。残念ですが,絶版になった多くのカロッサの文庫本が復活する機会は当面,なさそうです。

 

2月25日

岩波文庫には「不如帰」から始まって,徳冨健次郎の作品が9点入っています。今回復刊された「新春」は,蘆花の
(健次郎のとは言いにくいので)日常生活を描いた随想で,たびたび訪れた伊香保温泉の思い出や作品執筆の裏話が楽しい随筆集。

その中でとくに興味深いのは,明治39年のパレスチナ巡礼の旅と,トルストイ訪問記。
長い船旅の末辿り着いたエルサレムの雑踏やユダヤ人社会への熱き思いを語った”パレスチナの回顧”。
日露戦争終結当時のロシアの日本人に対する感情や,トルストイ邸に逗留し,
夫人を始め周囲の人々との交流をも描いた”ヤスナポリアナの回想”は,迫力のある筆致で綴られた貴重な記録です。

 

2月24日

「舞踏会の手帳」という懐かしい映画がありましたね。夫を失った女性がある日,16歳の時に踊った舞踏会の手帳を見つけ,
そこに書かれている一緒に踊った男達を探して訪ねて歩く,というお話。

今回復刊された「グライフェン湖の代官」は,スイス・グライフェン湖地方の功成り名を遂げた代官が,
若き日の実らなかった5つの恋物語を回想し,懐かしい思い出話を長々と語ったのちに,自分の館にかつての恋人5人を招待するという,ある種,
男の夢?を描いたストーリー。そこで女たちが一悶着,と当然期待するのですが,なぜか皆さん,ほのぼのムード。
そこがケラーらしいところといえば,それまでですが….。まあ健全な物語ということでお薦め^^;;。

 

2月23日

講談社+α文庫フェアの栞は,二つ折りにして表紙に引っかけるという面倒なもの。さぞかし書店が棚に並べるのに不自由だろう,
と思ったら,全部平積みしてありました。それでも外れた栞があっちゃこっちゃに散らばって散々….。

中公文庫新刊「宝島」。童話風のやさしい訳で買おうかな,と考えましたが,文字サイズと行間のバランスがなじめず,
なんとなく読みにくかったのでやめることに。わたしは現在の岩波文庫の文字組が,いちばん読みやすく,
他社文庫で文字がちょっと大きかったり,コントラストの弱いのっぺりした組だったりすると,やや拒否反応が出ます^^;;。

 

2月20~22日

通勤途上で,ワイルドの戯曲「嘘から出た誠」を読み終えました。原題は,”The Importance of Being
Earnest”。アーネストという名前が好きなふたりの女性に気に入られようと,偽名を名乗る男たちのドタバタ劇。ウィット(死語か?)
の利いたせりふがあちこちに仕掛けられており,古い訳でも結構楽しめます。今回復刊されていたのを書店でパラパラ読み,
面白そうだったので本棚から引っぱり出してきた次第。近くの書店の平台に並んでいた復刊本のうち,芭蕉文集のみ品切れになっていました。

 

2月19日

今回の新版「水滸伝」。基本的には,旧版を踏襲しているのですが,旧版では訳されなかった部分で,
新たに加えられているところがあります。たとえば第5巻では,李逵が李鬼の首を斬って飯を食う場面….李逵,飯を盛り,
しばらく食べてから,ひとりで笑いながら,「ぼんやりしていた。よい肉が目の前にあるのに,食べようとせぬなんて。」 腰刀を抜くと,
李鬼の腿から肉を二切れ切り取り,水で洗ってから,かまどで炭をかき起こして焼きます。焼きながら食べて
….といった感じで。

 

2月18日

電車の中の読書は集中できてよいのですが,涙が溢れたり鼻がタラタラしたときに,みっともないことになるので困ります
(涙もろいということ^^;;)。先日読んだ「われらの海」など,見え見えのストーリーであっても,
ドイツ潜行艇の攻撃で息子を失った場面や,船と運命を共にするラストシーンなど,やはり泣かせていただきました….。
恋愛ものよりも”男の仕事”にロマンを感じていたのですね,子供の頃から。

ということで,きょうは「水滸伝5」を読みました。毎月1冊ずつ,やっと半ばまでたどり着いた感じです。
この本なら涙の心配はないものの,読みのテンポがよすぎるので,ページをめくるのが容易でない満員電車では,また別の苦労があります。

 

2月17日

最近,古書店(というか新刊書店にもだけど)に行く時間がとれないので,せめてWeb上でヴァーチャル古書店巡りでも,
「古本屋ロード」

「古本屋さんに行こうよ!」
を眺めています。いやいや,羨ましいです….。

今月の岩波文庫新刊のうち,改版された茂吉「赤光」。書店でパラパラめくっていて,さして旧版と違わないなと感じ,買いませんでした
(改選版と初版,初句索引が付いているそう。もしかしたら全然違うのかも知れません…帰って確かめます)。
あとの4点はとりあえず購入済みです。

 

2月16日

最近,バスによく乗るようになりました。仕事帰りにときどき都バスで六本木や渋谷に繰り出すこともあるのですが,
やはりのどかなローカルバスの旅というのが良いですね。ちなみにこの新橋~六本木~渋谷コースの「都01」バスは,
一日300本近く走る運行本数第一位のバスだそう….。そういえば,いつバス停に行っても,いるなぁ。

「東京路線バスの旅」は,作家やタレント24人が自分の好きなバスに乗って,その沿線風景を綴ったもの。普段着のバスということで,
著者も東京人ばかり。土地勘のない人間には,どこを走っているのかピンとこないけれど,のんびり走る伊豆大島のバス,
一日2本の青梅御岳山のバス,夜のはとバス,など面白いものも多く,楽しめます。

2月13~15日

週末はずっと新宿方面にいたのですが,最近,渋谷,新宿といった騒々しい街には近づかなかったので,ちょっと頭が痛い^^;;。
調子を整えるべく,けさは,イバニエスの「われらの海(上)」を読みました。後付を見ると,私が生まれる前に初版が出て
(私がいままで読んでいたのは,このバッチイ本),今回の復刊が第2刷。第一次大戦を舞台にした,反独海洋冒険&恋愛小説といった感のある,
かなりロマンティックな話です。

2月12日

朝から「聖書物語」を読みながら出勤してきたので,なにやら一仕事済ませてしまった気分に….。戦前の旧カナゆえ,
翻訳の趣旨とは異なり,子供向きと言えないのが残念ですが,本書は旧約聖書の単なるやさしい解説書でなく,
その中に描かれているユダヤ民族の歴史を総攬しようとするもの。煩雑になりがちな旧約聖書のエピソードを,その線に結びつけているので,
とてもすっきりしていて,わかりやすい。いまさら聖書なんて….という方にも,あらたな発見があることと思います。

2月11日

マッキントッシュにはほとんど触れたこともない私ですが,Mac本はかなり持っていて,少なくとも解説書以外のパソコン書については,
Windows陣営はMacに遠く及ばないと考えています….。そんなMac本の中でも出色の一冊が,最近出た「林檎かわいや」。
これは有名無名に関わらず,古くからMacを愛してきた人たちが,
AppleIIからClassicIIまでの主に80年代Macへの思い出を語ったもの。懐かしい機影とともに,
 Macの歴史を知る本でもあります。装丁もMacらしい清楚でセンスの良いもので,
これもWindowsユーザーとしては羨ましいところです。

2月10日

昨年から活動を続けていた,慶応大学の文庫本調査班による最終報告が出ました。
出版関係の資料もよく揃えており,文庫本に興味のある方にお薦めします。私自身は,読書・蔵書に占める文庫本の割合が非常に大きいのですが,
これを見ると,世間一般で書籍界?における文庫本の役割は,1割内外かと….。

2月9日

今回のリクエスト復刊で何を注文しようかと,リストと在庫目録^^;;を照らし合わせながら考えています。
ないものは当然注文しますが,あってもボロボロだったり,新たな気分で読んでみたい,というものについては,やはり買うことにしています。
「われらの海」や「聖書物語」が後者になるかな….。とりあえず,帰りに書店をのぞいてみるつもり。

2月5~8日

「ふるほん文庫やさんの奇跡」をようやく入手。ふるほん文庫やさん開業までの経緯が詳しく書かれており,興味深く読みました。
谷口会長の浪花節調半生記でもあるわけですが,その商売にかける情熱と馬力は,やはり大したものです。私自身は,絶版稀少文庫本以外が,
どのようにして商売になるのか不思議でしたけれど,この人ならべつに文庫本じゃなくても,なんでも売りまくってしまうでしょうね….。

2月4日

先頃話題になった皇后陛下の読まれた名作児童文学選集が,なんと復刊されました^^;;。「世界名作選上・下」
(山本有三編,新潮社・各1,600円)。初版は昭和11年刊。私は,青山ブックセンターの新刊案内で知りました。
このページ,”おしゃれな本”を紹介しているだけに,なかなかデザインも凝っていて綺麗なんですが,
重くて息切れしてしまう….。

2月3日

95年洋泉社刊の「トンデモ本の世界」(と学会編)が,宝島社で文庫化された。本書は,古今東西の怪しげな本,眉唾本をあつめ,
そのめちゃくちゃぶりを紹介したもの。テーマは,UFO・宇宙人,宗教,オカルト,国際陰謀,予言,古代史,小説,実用などさまざま。
ノストラダムスの大予言や矢追純一など有名本もあるが,大部分はいかにも怪しい無名本….。

ちなみに,小説部門で取り上げられているのは,門田泰明(黒豹シリーズ),志茂田景樹,ピーター・アルバーノ,南沢十七の面々。
アダムスキーやシオンの議定書についての解説,大槻教授をはじめとするトンデモ人物列伝もある。ブックガイドとしては異例な,
元本を読む気力を見事に萎えさせる本。

2月2日

河出文庫が創刊されたとき,その第一弾で出たのが宮脇俊三の「時刻表2万キロ」
当時の国鉄全線完乗の記録を綴ったこの本,学生時代にとくに愛読し,2万キロには及ばずとも,
何日も夜行列車を乗り継いで旅した頃を懐かしく思い出しました。というのは,最近書店の平台に,立派な角川書店「宮脇俊三鉄道紀行全集」
シリーズを見つけたからで,1冊4900円という値段にかかわらず,つい買ってしまいそうになったのです….引っ越し前だし,
収録した作品はみんな繰り返し読んだものばかりなので,かろうじて踏みとどまりましたが^^;;。鉄道旅行の好きな人にとっては,
たまらない作品集なのです。

宮脇さんは有名出版社の雑誌編集長をつとめていた人で,そのサラリーマンとしての本務の合間をぬって,
あくまで趣味として全線完乗を果たしたことに,本書の第一の意味があります。決して鉄道マニアの若者が暇に任せて乗りまくったわけではなく,
紀行作家がこういう本にまとめるために乗り始めたわけでもないのです。あるときは出張のわずかの隙をねらっての乗り潰し,
あるときは家族から冷たい目で見られつつ連休を利用しての乗りまくり,と涙ぐましい努力を続ける様は,
鉄道に限らず何らかの趣味を持つ勤め人なら,共感せざるをえないところでしょう。上品でありながら,
随所で思わずにやりとさせられる巧みな筆運びにも感心させられます。
鉄道マニアなんて怪しいものには近づきたくない….という健全な皆さんに,とくにお薦めします。

2月1日

「図書」2月号に,岩波文庫「きけ わだつみのこえ」をめぐる訴訟に関する経緯が載っていて,興味深く読みました。旧版の「わだつみ」
に,オリジナルの手紙に対して,かなりの改変があるということは,以前から指摘されていましたが,
今回(1995年)新版を発行するにあたって,わだつみかい元理事長に原文の提供を求めたところ,拒否されたとのこと。
その辺りのいざこざが訴訟の原因となっています。私自身は,
高校生の頃読んだ旧版では戦争の犠牲者としての悲しみを訴えた手紙に目がいきましたが,
新版ではむしろ学生達がなぜ戦争に駆り立てられたのかということに関心がいきました。それが編集のせいかはわかりませんが….。