1998年7月

7月31日

きょうで7月も終わりなのに,まだ梅雨があけたあけないとグズグズ。電車も大雨で止まってグッタリ。どうもノリの悪い月末です。でも,電車の中で中学生の男の子が,なにやら一所懸命読んでいるので失礼して覗くと,椎名誠の「オババ」でありました。う~ん,まともな中学生もいるんだ,安心安心。

7月30日

「図書」8月号に一括重版の広告が,先月に続いてまた載っていました。売れてないんかな? ところで,今月発売の岩波文庫にヴェーバーの社会科学と社会政策にかかわる認識の「客観性」があります。このカッコを含み22字の書名は長いですね。岩波文庫の長いタイトルには「イワーン・イワーノヰッチとイワーン・ニキーフォロヰッチとが喧嘩をした話」(35字)というのがあるけど^^。またランキングでもやってみようかしら。

7月29日

やや殺風景だった掲示板をリニューアルしました。旧掲示板の書き込みはそのまま残してあります。よろしくお願いします。

7月28日

高校生の時,英語の先生が「発音のわからない単語は覚えられないので,最初からハッキリ発音を確かめよう!」といっていました。要は字面だけ覚えようとしても無理だ,ということでしょう。

同様に外国の小説で,登場人物の名前がなかなか覚えられない場合,実際に口に出して呼んでみると少しは効果があるようです。とくに親しみのない名前が多い東欧の小説は難しい。なぜそんなことを思い出したのかというと,アンジェイェフスキの灰とダイヤモンド(岩波文庫)を読んだからで,このポーランドの小説は著者からして覚えられない^^;;。ストーリー自体は,ヴァイダ監督の映画で親しい人もいるでしょうが(シナリオは共同執筆),第2次世界大戦末期のポーランド情勢をドラマティックに描いたもの。やや強引な展開だと感じるところもありますが,戦後すぐ,ほぼリアルタイムで書かれただけに,臨場感に溢れ,一気に読んでしまいました。

7月27日

最近登場したHarlequin’s Fansは,ハーレクインロマンス(略称HQ)の専門サイトだ^^。HQには,なんとファンクラブまであるらしい。HQに近づきがたいものを感じる諸兄は,一度覗いてみましょう。楽しいページです。

7月25~26日

週末は子供のお守りで,海へ水遊びに行ってました。辻堂海岸はサーファーや子供連れでいっぱい。ビチャビチャになっては,家へ戻ってシャワーを浴び,腹ごしらえして,また出撃。一日中大騒ぎして,ぐったり疲れました。

日曜日は書棚の整理。ずっと岩波文庫50周年記念復刊の青い箱を探しているのですが,見つかりません。オレンジ帯の本自体は,まとめて並んでいるのですが,箱はどこかに片づけてしまったようで….。20年以上前になりますが,札幌の書店で買ったこれを担いで,地下鉄に乗って下宿へ持ち帰ったことを思い出しました。そのなかのいくつかはその後復刊されています。

7月24日

岩波文庫最新刊の薄田泣菫「茶話」をまだ買ってない人はちょっと待った! この本はあまりに面白すぎて,摘録(154篇)の岩波文庫版じゃなく,冨山房百科文庫の「完本茶話」(811篇….わたしもこれで読んでいました)を読みたくなるのは必至なので,書店でパラパラ読んで気に入ったら,そちらを探しましょう。

泣菫を「あゝ大和にしあらましかば….」などの詩人として記憶している人は多いでしょうが,新聞社の学芸部長を務めたジャーナリストでもあり,この「茶話」も大阪毎日新聞などに連載された大正期の人気コラムでした。いやいや,結構キツイことを書いていて笑えます。

7月23日

中国の処世訓にもいろいろありますが,その中でも現代人に受けそうなのが韓非子(岩波文庫)ですね。

韓非は,その現実的かつ法律万能主義の思想で始皇帝を感激させ,秦の宮廷に迎え入れられますが,同門の李斯の卑劣な妨害により自殺。のちにその李斯が韓非の理論を実践して成功し,始皇帝の宰相になるという悲劇の人です。韓非の非情な人間観は,現代に於いては大変わかりやすいものですし,ふんだんに出てくる史話も興味深いので,お説教臭い話はゴメンだ,という人にもお薦めします。

7月22日

もう読まれた方も多いと思いますが,絶対音感(最相葉月)をようやく手にしました。音楽家のインタビューやドキュメント本の中でもユニークな視点のこれは,噂に違わず面白かった。絶対音感が先天的な資質なのかどうかはわからないようですが,一般の人にはない感覚を持っていることが果たして音楽家として幸せなのか否か,というところにも興味を惹かれます。

私は子供の頃,私の見ている赤や緑の色が,他人の見ている赤や緑の色と同じであるかどうか,疑問に思っていました。もっと一般的に,私の感覚(五官)が,他人と同じようなものであることを,検証できるのか?ということも。たしか雑誌にも同じような疑問が載っていて,そこには生体のメカニズムが同じもの同士であるから,感覚も同じと思われる….というしごく簡単な答がありました。

7月21日

最近はワインに関する文庫本も目に付くようになりましたが,これはハードカバー。Making Sense of Wine(白水社)はワインライター,マット・クレイマー著の「ワインがわかる」本です。だいたいワインを解説する本を買うくらいなら,当のワイン自体を買った方がよい,と思っていますが,それはあまたあるワイン本が,全く代わり映えしないものだからです。どんなワインを買ったらよいか? 保管場所は? 飲み頃は? 料理との相性は?….一冊読めばみな同じ。でもこれはちょっと違う。

彼はコニサー(目利き)を「好きなものと良いものの区別ができる人」とし,「ワインにおける科学全盛期」である現代においては,「技術的に上出来なワインと本質的に優れたワインを峻別するという微妙きわまる難題に直面」していると考えます。また,ワインの歴史については,古いワインと現代人が賞でるワインが別物であることに注意し,普通言われている保存方法は旧弊な樽保存にふさわしいもので,家庭のセラーには相応の注意があるべきだ,としています。

旧来の常識に一つ一つ疑問を投げかけ,ユニークかつ納得できる答えを引き出すこの本は,実用書としても優れ,一本のワインを我慢しても読む価値があります。

7月17~20日

三連休でゆっくり休もう,と思っていたのですが甘かった。錦糸町,秋葉原,新宿と渡り歩いて,またまた帰りは午前様。一歳児がこんな夜遊びしてていいのか?とも思いましたが,本人はまだまだパワーが衰えず,昨日も従妹のところへ泊まりにいってしまいました。というわけで,三日間に読んだ本はインターネットの雑誌を少々とインテリア雑誌数冊….。今週は頑張ります^^;;。

しかし連休中,閑散としていた東京で,秋葉原のあの人混みはなんなのでしょうか^^。Windows98の発売日が楽しみですなー。

7月16日

別冊宝島のシリーズが好きで,別にパソコンを買うわけでもないのに「いっきにわかるパソコンの買い方・使い方Windows98スタート編」というのを買ってきました。Macを全く無視しているのは相変わらずですが,ペンティアム300に4.3Gのハードディスクがエントリーマシンとは….。私のペンティアムプロは希少価値がでないかな(いや絶対にでない)。

7月15日

鴎外の日記には啄木の名前が4回出てくるそうですが,その最後に「夜石川啄木来て新聞社の為に宮中撰歌の事を問ふ。答えず」と書かれています。

これは当時,東京朝日新聞にいた啄木が,宮中新年御歌会の詠進者の選考に情実が絡んでいるという噂について鴎外に取材にいったところ,鴎外が(陸軍軍医総監の立場としては当然ながら)それには答えられない,と言ったことを示しています。これが両者の訣別となったわけですが,それ以前から啄木には鴎外に対する不満が増していたようです。

「森先生の小説を読むたびに,私は何か別のものが欲しくなる。森先生はあまりに平静である。あまりに公明である。少なくとも我々年若い者がお手本とするには。」(啄木『昴』)

7月14日

サンリオ文庫から葉祥明のイラスト付きで立原道造詩集「夢みたものは…」が出ていたらしいのですが,見たことがありますか? 私は学生時代(いや今でも),立原道造が好きで,詩集はもとより書簡や日記に至るまで,丹念に読んでいたのですが,この文庫本があったことは不覚にも知りませんでした。立原って誰?という方には,岩波文庫の詩集,あるいはnet上の青空文庫で,詩集『暁と夕の詩』と『萱草に寄す』が公開されています(エキスパンドブック版も)。

7月13日

最近は小錦の面白いCMや税制見直しで,ウィスキー飲みが増えてきたという話もありますが,さて,水割りの美味しい割合というのはどれくらいでしょうか? 以前,ウィスキーメーカーのCMで2.5対1がよい,と宣伝していましたが,古代ギリシャ人もこれには悩んだとみえて….

  • 半々割の酒なんて,俺はとろけちまわあ(クラティノス「酒壺」)
  • 三杯の水をまず注ぎ,四杯目に酒を注げ(ヘシオドス「仕事と日」)
  • 五と三は飲め,四は飲むな(諺:酒二に水五,酒一に水三が良い,の意)
  • やあ,オイノマス君,五対二君よ….(ニコカレス「アミュモネ」)

みんな紀元前5世紀くらいの話ですが,「食卓の賢人たち」(アテナイオス著,岩波文庫)には,魚狂い人名録抄,マケドニアの結婚祝賀宴,魚奇談,などなど古代ギリシャ人の食をめぐるウンチク話が満載で,大いに笑えます。(ほかの食の本についてはここをご覧下さい)

7月10~12日

歌人の窪田空穂は,明治28年に早稲田大学の文科に入り,坪内逍遙の薫陶を受けました。その「窪田空穂随筆集」(岩波文庫6月刊)は,当時の早稲田の学生生活(学生野球事始めみたいな話も)や,坪内逍遙にまつわる心温まるエピソードが豊富で,なかなか楽しめます。空穂を敬愛していた大岡信は,結婚式の媒酌人を頼んだり名付け親になってもらったとかで,同人による巻末の解説が,もっぱらそんなプライベートな出来事に終始しているのも面白いところ。雑談調で気楽によめる本です。

7月9日

東京お台場に新しくできたメリディアンホテルのロビーには,なぜかシトロエンが飾ってあり,カップルが覗き込んだりしていましたが,やっぱり今でもフランス車には味がありますな….。そんなおしゃれなフランス車には縁がないと思われる岩波文庫ですが,いえいえ,それがあるんですよ,お嬢さん^^。

日曜日の午後,パリへ向かう高速道路を走る車が,フォンテンブローで渋滞に巻き込まれるところから,この奇妙な物語は始まる。プジョー404,203,2HP,カラヴェル,シムカ….懐かしいフランス車が次々と押し寄せてきて,ついに全く動かなくなった車の中で夜は更けてゆく。・・・渋滞は何日も続き,水や食料は無くなり,ついには死者まで出る始末。次第に近くの車同士が集まり,乏しい物資をもとにした共同生活が始まる。・・・そして永遠とも思える日々が過ぎ,ついに車は動き始め,運命共同体を成していたそれぞれの車は,全速力で,再び見知らぬ車の中に,日々の生活の中に消えてゆく・・・・

現代文明の隙間に生まれたつかの間の原始共同体の夢と,その崩壊の過程を描いたこの小説は,コルサタルの「南部高速道路」(岩波文庫)。お薦めです(絶版になっちゃったみたいです^^;;)。

7月8日

モーツアルトのオペラ「魔笛」については,台本が支離滅裂だ,というのが決まり文句で(第一幕最後でザラストロが悪役から突然聖人になったりするところね),それゆえストーリーの哲学的意味?については,オペラ読本などの類で,いろいろと想像力豊かな解釈がなされているわけです。

そんな長年の悩みを吹き飛ばしてくれる本がありました。カミサンがピアノの生徒用に買っておいた全音出版社のピアノ絵本「魔笛」。各場面の有名なアリアや合唱のピアノ楽譜のついた絵本ですが,子供向きに天真爛漫,虚心坦懐,スッキリと描かれているので,もう安心です。モーツアルトはやはり,子供の心に戻って楽しむのがよいようで….。

7月7日

岩波文庫を読んでいて一番感じるのは,「ああ,これはこういう本だったんだ!」ということ。つまり,名前のみ知っていて中身を知らない本が多いのですね。たとえば,朱子学や陽明学など,結局それは何なのか? 高校の授業で名前だけ覚えていても,さっぱりわかりませんでした(頭悪かっただけか?)。でも,最近出た「大学・中庸」には丁寧な解説が付けられていて,朱子学の歴史と意義が私にもわかりました。本文も平易な現代語訳で読みやすいのですが,あまりスッキリしてしまうと有難みがなくなってしまうかもしれませんね^^。とりあえず,受験勉強にも役立つ岩波文庫。

7月6日

貧乏旅行といってもいろいろランクがあって,日本人の貧乏なんてのは所詮「外国旅行者」レベルでの貧乏である….ということで,アジア,アフリカ各国を旅しているイラストレーター蔵前仁一さんの「旅ときどき沈没」が講談社で文庫化されました。

蔵前さんは「ゴーゴー・アジア」や「ゴーゴー・インド」など,自由気ままな一人旅(のちに奥さんを連れての二人旅)の絵入りエッセイで人気ですが,移動移動に明け暮れる旅では見ることのできない人々の生活や,そこで出会ったユニークな旅人を「沈没する」(気に入った場所に長く留まって動かない)ことにより発見しようという旅の記録です。笑えるイラスト満載で,普通の旅にしか縁のない人にも大いに得るところ大です(文庫版をまだ見ていないので,単行本と同じだったら….ですが)。

7月3~5日

週末は平塚七夕祭りで,我が家の周りも大混雑。まともに歩くこともできない….というわけで,お台場に脱出していました。こちらもなかなかの人出でしたが,さすがに昼間は暑すぎて,夕方頃からようやく人が溢れてくる,といった感じ。しかし,書店や古本屋がなければ暮らしてゆけぬ?本好きの人にとって,こういう新開地は魅力がないでしょうね。その土地の文化度を書店や古書店の数で量るならば,この辺りよりも地方都市のほうにずっと豊かな町がありそうです。平塚にも東京の古書市によく出品していた老舗古書店,萬葉堂がありますが,最近様子を見に行っていないので….。

7月2日

以前,啄木の「ローマ字日記」の問題部分が雑誌に掲載されて,当局より警告処分を受けたことがありました。そのとき,もともとその部分も載っている岩波文庫版が大丈夫なのになぜ?と問題にもなりました。興味本位の抄出と「芸術作品」との違いである….というようなことなのでしょうが,岩波文庫を「一般の人」が読むようなものではない,と思っている人がいるのだとしたら,面白いことです^^;;。ローマ字日記自体は,公表を前提にして書かれたわけではないでしょうし,私自身,どうしても覗き趣味的にしか読めないので,気が滅入るものだという印象があります。

7月1日

澤木四方吉「美術の都」(岩波文庫)を読みました。大正初期にフランスやイタリアの美術探訪の旅に出た著者の日記や書簡を集めた紀行文集で,イタリアの観光美術案内としても役立つ本です。(これを簡略化した昭和版が松永伍一「私のフィレンツェ」ですな)

『芸術創造力や文化にとって王者と貴族の存在がなければならず,民衆的傾向はこれを弱めるものである。フランス革命は人道的功績を残したかもしれないが,群雄割拠の病的近代思想を産んだ。英国は王国にして王政がないところに弱点があり,
フランスは共和制でありながら王国の残影をとどめるところの希望がある。』….「第三の男」かな,これは^^;;。

文中しばしば引き合いに出されるブルクハルト「伊太利文芸復興期の文化」と森鴎外「即興詩人」(ともに岩波文庫)も合わせて読むと一層楽しめるでしょう。ほかに著者が直接見聞きしたカンデンスキーについての小論も興味深いところです。