「現代文庫」という名は,あまりに芸がない気もするが,「現代文庫」が出たことによって,既存の岩波文庫は, 「古典文庫」としての地位がようやく確定したわけで,これはこれでめでたいこと。 岩波文庫になるべく新しい作品もとりこんでいきたい,という最近の方針は何処へ行ったか定かではないが....。 考えてみれば,昭和2年創刊時の岩波文庫は,その時代の新しい作品も取り込んでいたわけで, それは当時の作品が既に将来の古典としての力があった,あるいは岩波がそれを見通した気になっていたのに対し,あえて今回, 現代文庫という亜種を持ち出したのには,現代の作品に対し岩波が,それらを古典になりうる作品, 岩波文庫にふさわしい作品と認めるだけの自信がないという態度の現れともいえ,「現代文庫」という名が, なんとなく脆弱な感じを与える理由も,その辺にありそうだ。。
岩波文庫は,他の文庫が古典路線を捨て去ったことにより,自然に差別化されてきた。岩波現代文庫を, 他の文庫や新書と差別化するポイントはどこか。刊行予定のリストを見ても, ちくまや講談社のラインナップとどこが異なるのか,ハッキリしない。それらは,岩波が現代の作品を広く渉猟し, セレクトした優れた作品であるのか,あるいは,単に岩波書店で出版した一般書の廉価版に過ぎないのか。
文庫,新書と常にパイオニアを自任してきた岩波が,あえて他社の土俵に踏み込んで勝負する「現代文庫」。 岩波文庫創刊の辞に謳ったように,「現代文庫」もファンを得て,恒久的な事業と成りうるのか。 これはなかなか前途多難と思われる。