1997年11月20日

1997年11月

Book Review
November 1997

先月までは創刊70周年記念の新刊・復刊ラッシュで,読む方も (たぶん出す方も)なかなか忙しかったが,今月はいつものペースで4点の新刊が出た。

1 市民の反抗

19世紀アメリカの作家ソローは自然を詳細に観察し, 植物や動物のスケッチを数多く日誌に残した。岩波文庫読者にはウォールデン湖畔で2年あまりを過ごした経験をもとに書いた 「森の生活」(WALDEN)で馴染みがある。奴隷制に反対し投獄され,その後は執筆と講演で暮らし, 45歳で亡くなったソロー。本書からは消費社会や自然破壊,個人主義と国家主義など, 現代社会の問題点に早くから取り組んだ,ナチュラリストとしての彼の姿を伺うことができる。

宝島社版「森の生活」には, 輝かしい経歴を捨てて森に入った....云々という紹介があるが, ソローの森は満たされない教師生活や家業からの逃げ場だったと考えるのが自然ではないか....。 もとより現代のうさんくさいナチュラリストと一緒にするつもりはないが。

2 アイルランド-歴史と風土

著者オフェイロンは現代アイルランドの作家。アイルランドの歴史を, 神話の時代から,現代の独立運動まで,活動家としての自らの体験を交えて詳細に語る。

対英武力闘争の悲惨な体験を描いた“真夏の夜の狂気”などでアングロ・ アイリッシュ文学の中心的存在だったオフェイロンの短篇集。

3 西遊記(9)

ピンチヒッターとして登場した中野美代子氏の訳も馴染みになった西遊記。全10巻中の第9巻。 話はいよいよ佳境に入り,凶星を負った三蔵は和尚殺しの願を掛けた滅法国の国王からいかに逃れるか?

20年ほど前,教壇でみた中野先生は, 全く色気のない声で妙に威勢良く色気たっぷりな金瓶梅など中国小説の話をしていた。最近はいろいろメディアに登場し, 相変わらずの貫禄を見せているようです....

4 確率の哲学的試論

18世紀の数学者ラプラスの哲学的な確率論。 宝くじなど賞金の期待値は? 保険の掛け率は?身近な確率の問題を,数式なしで明快に説く。 

「化学の学校」(岩波文庫)を読んで, 高校の化学の教科書がこれほど明快で楽しいものだったら,さぞかし化学好きの学生が増えるだろうと思った。 総じて古典的な科学書は,読み物としても楽しめるものが多い。難しいことほど平易に書け,と言うが, 既存の理論をこねくり回す現代の科学書に,読む楽しみはあるか?

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